社会的処方としてのお寺
― ウェルビーイングを育む地域の共有地を目指して ―
当寺では、2021年4月より月に一度、地域に開かれた健康づくりの活動を継続して行っています。
その名は、
「100歳まで歩いて通えるお寺プロジェクト」(通称:100PJ)です。
この活動は、お寺を拠点に、誰もが気軽に体や暮らしのことを話せる場をつくるという小さな実践でした。
2021年は、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下という、人と人とのつながりが分断されやすい時期でしたが、それでも「地域のつながりを途切れさせてはいけない」という思いから、幸教寺本堂にて活動を開始しました。
その結果、
- ココカラ相談所:55回開催
- ココカラYOGA:102回開催
合計 200名以上(2026年1月時点) の方にご参加いただきました。
特筆すべき点は、
その多くが檀信徒(信者)さん以外の地域住民の方々であったことです。
また、実際に参加されなくとも、活動を通じて少しずつ地元の皆さまに認知され、「お寺で何かやっているらしい」と声をかけていただく機会も増えてきました。
こうした取り組みが評価され、
2023年1月には大阪府健康づくりアワード地域部門優秀賞を受賞いたしました。
大阪府健康づくりアワードは、
大阪府では、企業における健康経営の取組みや、職場や地域での健康づくり活動が、業績や企業価値の向上、地域の活性化につながるものと考えています。府内におけるこうした自主的・主体的な健康経営や、健康づくり活動の奨励・普及を図ることを目的として「大阪府健康づくりアワード」を実施し、積極的に健康づくり活動を行っている団体を表彰します。
大阪府HPより
詳細はコチラ↓
https://www.pref.osaka.lg.jp/o100070/kenkozukuri/award/7award.html

この経験は、お寺が今なお地域にとって意味のある場所になり得ること、そして健康づくりが人と人を再びつなぐ力を持っていることを、私自身に強く実感させるものでした。
この記事では、当寺の”100PJ”について詳しく書いております。
【公式Facebookグループ】
https://www.facebook.com/groups/452130002800318
1.はじまりは、私自身の身体の不調からでした
20代の頃、坐骨神経痛を患い、首から腰にかけて慢性的な痛みに悩まされるようになりました。
横になっていても、座っていても、歩いていても痛みが続き、生活にも支障をきたす状態が一年近く続きました。
病院で検査を受けても、骨や神経に明確な異常は見つかりません。
医師から告げられたのは、「筋力低下による不調でしょう。運動してください」という言葉でした。
正直なところ、その時は戸惑いました。
「こんなに痛いのに、原因は運動不足なのか」と、どこか納得できない思いもありました。
しかし、生活習慣を振り返ると、長時間の正座による姿勢の固定、移動は自転車やバイクがほとんど。
思い当たることばかりでした。
そこから私は、自重トレーニングを中心とした運動を、半ば「リハビリ」のような感覚で始めました。
健康になりたいからというより、「やらなければ痛みが治らない」という切実さが原動力でした。
結果として、慢性的な痛みは徐々に改善していきました。
2.気づいたこと ― 健康は個人の努力だけでは続かない
● 同じような不調や不安を抱えている人は、実はとても多い
● 運動や健康が大切だと分かっていても、行動に移すのは難しい
● 健康に関する情報はあふれているが、「自分に合う方法」が分からない
● 一人で取り組む健康づくりは、継続しにくい
これは私個人の問題ではなく、”現代社会そのものが抱える課題”ではないかと感じるようになりました。
では、病院やジム以外に、もっと気軽に健康のことを話せる場所はないだろうか。
専門家に相談でき、誰かと一緒に取り組める場所が、生活圏のすぐ近くにあったらどうだろうか。
その問いの先に浮かんだのが、「お寺」でした。
3.お寺は、もともと社会的処方の拠点だった
つまりお寺は、老若男女を問わず、誰もが自由に行き来できる「共有地(コモンズ)」として機能してきたのです。
ところが現代では、お寺は「葬儀や法事のための場所」「信者だけの閉じた空間」というイメージが強くなっています。
しかし、仏教の教えは本来、老若男女を問わず、立場や能力を問わず、すべての人に開かれた普遍性を持っています。
私は、お寺はもう一度、地域に開かれた“生きた場所”になれると考えるようになりました。
4.社会的処方という考え方との出会い
社会的処方とは、
薬や医療行為だけでなく、人とのつながり、居場所、地域活動といった社会資源を用いて、人の健康や幸福を支えていく仕組みです。
特にイギリスでは、医療と地域をつなぐ「リンクワーカー」という専門職が、孤立や不安を抱える人を地域活動へとつなぐ制度が整えられています。
この考え方に触れたとき、私は強い既視感を覚えました。
それは、かつてのお寺が果たしてきた役割そのものだったからです。
5.100歳まで歩いて通えるお寺プロジェクト
このプロジェクトの目的は、単に運動を勧めることではありません。
● 心の悩みを話せること
● 身体の衰えに早く気づけること
● 人とのつながりを感じられること
これらを、お寺という安心できる空間で提供することです。
6.一般社団法人 歩っとこもんずの設立
行政、医療、福祉、教育、地域団体と柔軟に連携するため、
2024年に”一般社団法人 歩っとこもんず”を設立しました。
宗教法人とは別の法人格を持つことで、より開かれた形で社会的処方の実践を行っています。
7.ウェルビーイングを支える三つの柱
1. 身体的健康(運動・予防・身体機能)
2. 心理的安心(悩みを語れること、否定されないこと)
3. 社会的つながり(役割、居場所、関係性)
この三つが重なり合うことが重要だと考えています。
ココカラ相談所
ここで大切にしているのは、
「何かを強制される場」にしないことです。
話すだけ、測るだけでも参加できる“ゆるやかな入口”を大切にしています。
【ココカラ相談所の主な内容】
1. 歩くことの重要性
2. 筋力測定
3. お悩み相談
4. まち歩き
まず、”歩くことの重要性”について、次の点を科学的根拠に基づいてお伝えしています。
・1日に8,000歩以上歩く人は長生きする。
・歩くことで動脈硬化を抑制する。
・正しく歩くために必要な3つの要素。
これらを理解していただいたうえで、実際に自分自身の筋力がどの程度あるのかを測定します。
筋力測定によって、「自分の体のどこが良く、どこに課題があるのか」が見えてきます。
つまり、体の問題点が自然と浮き彫りになるのです。
たとえば、数年前の私であれば、生活習慣による背中まわりの強いこりや、同年代と比べて筋力が不足していることによる姿勢の崩れなどが、測定結果から明らかになりました。
こうした問題点が見えてきたところで、次に「なぜその状態になったのか」という視点からお悩み相談を行います。
この段階では、
測定前からご本人がすでに気づいているケースも多くありますが、測定データと理学療法士の専門的な視点を加えることで、より具体的に、分かりやすく整理していきます。
そして、自分の体の状態を理解したうえで、問題となりやすい部位(膝・腰・肩など)に対して、ストレッチや簡単なトレーニングを“みんなで”行います。
「きつそう」「難しそう」と思われることもありますが、実際には自宅にあるもので、無理なくできる方法ばかりです。
膝に不安のある80代の女性の方でも、無理なく取り組んでいただけました。
このように、歩くこと(運動)の大切さを学び、測定によって自分の立ち位置を知り、問題解決に向けたストレッチや運動を実践していきます。
そして最後に、「ここまで知ったなら、ぜひ外へ歩きに行ってみましょう」とお声がけしています。
夕飯の買い物にスーパーへ行くのも良いですし、「おいしいお店がある」と案内することもあります。
お寺から、それぞれの帰り道をみんなで歩いてみることもあります。
こうした外出を通じて、「まちを楽しむ」「歩くことを楽しむ」という二つの効果が自然と生まれます。
以上が、ココカラ相談所の主な活動内容です。
ただし、
「参加した以上、すべてをやらなければならない」ということはありません。
おしゃべり(悩み相談)だけでも、測定だけでも構いません。
強制しないことこそが、この相談所の大きな特徴です。
そのため、私たちも私服で、スケジュール通りにきっちり進めるような堅さはありません。
「気軽に行こう」
それが、ココカラ相談所です。
以下に資料を添付しておりますので、ぜひご覧ください。
ココカラYOGA
体力や運動経験を問わず、どなたでも参加でき、心と身体の緊張をゆるやかにほぐす時間を提供しています。
この活動は、運営スタッフの嶋田 愛さんに、月1~2回のペースでご担当いただいています。
嶋田さんは、大阪産業大学においてスポーツ指導や研究に携わるほか、理学療法士の板矢と連携し、心臓病患者さん向けの運動プログラム「いきいきハートクラブ」にも取り組まれています。
スポーツ指導の専門家として、参加者の皆さんからも「安心して参加できる」とのお声を多くいただいています。
ところで、「YOGA」と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
古代インドに起源をもつヨガは、もともと瞑想を中心とした修行法でしたが、現代では身体的なエクササイズとしても広く親しまれています。
そのため、「難しそう」「体が柔らかくないと無理そう」といった印象を持たれる方も少なくありません。
実際、ホットヨガやマインドフルネスなど、さまざまな形に発展しています。
ココカラYOGAでは、そうしたイメージとは異なり、ストレッチを中心とした内容を大切にしています。体が硬い方や運動が久しぶりの方でも、無理なく取り組める内容です。
現在は、地域の方々やご門徒(檀家)さん、そのご家族にもご参加いただいています。
私自身は、家事や育児、仕事の合間に、ふらっと立ち寄れる場所であることを大切にしています。
嶋田さんもまた、「“あそこに行けば誰かがいる”と思ってもらえる場所をつくりたい」という思いで、この活動に関わってくださっています。
● ヨガは気になるけれど、スタジオに行くのは少しハードルが高い
● 体が硬くて、肩や腰がこっている
● ストレスを解消して、気分転換したい
そんな方にこそ、ぜひ一度ご参加いただきたい活動です。
基本的には予約なしでも参加可能ですが、下記に予約フォームのリンクも掲載しています。
いく寺保健室
「病院に行くほどではないけれど、少し気になることがある」
そんな日常の不安や違和感を、気軽に相談できる場として行っている取り組みです。
かつて大阪府看護協会が提唱してきた「まちの保健室」の理念に共感し、その考え方を引き継ぐ形で、現在は一般社団法人 歩っとこもんずが主体となり継続・発展させています。
学校の保健室が、生徒にとって「何かあったら立ち寄れる場所」であるように、いく寺保健室もまた、年齢や立場を問わず、誰もが安心して話ができる場所でありたいと考えています。
【活動内容】
いく寺保健室では、専門的な知識をもつ看護職や支援者とともに、
● 血圧・握力などの簡単な健康チェック
● 生活習慣病や介護予防に関する相談
● 看護・介護・在宅療養に関する悩み
● 家庭や学校、仕事など、ひとりで抱えがちな相談
などを受け止めています。
診断や治療を目的とする場ではなく、「気になることを、そのまま持って来られる場所」であることを大切にしています。
また、こころとからだの健康相談に加え、健康情報の提供や学びの機会、人と人が自然につながるコミュニケーションの場としての役割も担っています。
【社会的処方としての位置づけ】
いく寺保健室を訪れる方の多くは、医療や福祉の制度につながる「一歩手前」の段階にあります。
だからこそ、早い段階で人とつながり、話ができる場所があることが、孤立の予防や健康寿命の延伸につながると考えています。
いく寺保健室は、医療でも福祉でもない、けれど確かに人の暮らしを支える社会的処方の入口となる居場所です。
100歳体操・健康麻雀 同時開催
● 100歳体操(13時30分~14時)
無理のない体操を通して、筋力やバランス機能の維持を目指す取り組みです。体力に不安のある方でも安心して参加できます。
● 健康麻雀(14時~16時)
「賭けない・飲まない・吸わない」を基本とした健康麻雀です。
頭を使い、人と交流することで、認知機能の維持や孤立防止につながる場となっています。
体を動かすこと、話すこと、考えること。
それぞれが自然につながることで、心と身体、そして社会的なつながりを同時に支える時間となっています。
活動日時・場所
開催日時:毎月第1月曜日
● 13:00~15:00 いく寺保健室
● 13:30~14:00 100歳体操(毎週月曜日)
● 14:00~16:00 健康麻雀 (〃)
参加費用:無料
※ 参加は自由です。途中参加・途中退出も可能です。
8.その他の活動
● 地域イベントへの参加・出展
● 健康づくりや居場所づくりに関する意見交換
● 地域課題を共有する場への参画
お寺という立場を活かしながら、分野や世代を越えた“つなぎ役”となることを意識しています。
過去の活動について詳しくは【】内リンクを参照ください。
9.僧侶として思うこと
しかし同時に、その現実の中でどう生きるか、どう支え合うかを問い続けてきました。
健康づくりとは、単に長生きすることではありません。
今この瞬間を、自分らしく生きられているか。
その問いと深く関わっています。
10.これからに向けて
医療でも福祉でもない。
けれど確かに人の健康と幸福を支える、地域に根ざした社会的処方の実践として。
投稿者プロフィール
- 住職
- 高校在学中に仏道へと入門し、早20年以上携わっております。当寺ではあらゆる角度から仏教の素晴らしさをお伝えするとともに、仏教伝来より培われてきた伝統文化と健康を共有する「体験型」寺院を目指し活動しております。ライフスタイルの多様化により、葬送や納骨などの形式が変化している近年です。終活に関するご相談も随時承っておりますので、お気軽にご相談ください。
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