住職奉納 四天王寺 経供養 ― 千年の祈りを舞に託して ―
令和7年10月22日(火)13時より太子殿にて、(晴天時は四天王寺聖霊院前庭)聖徳太子ゆかりの寺・四天王寺にて、秋の恒例法要「経供養(きょうくよう)」が厳かに執り行われました。
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この法要は、日本にお経(仏教経典)が伝来したことを記念して始められた、わが国最古の仏教儀礼のひとつです。
如法写経会で書かれたお経が奉納され、音楽と舞によって仏法への感謝と平安を祈ります。
かつては“椽の下の舞(えんのしたのまい)”とも呼ばれ、太子殿の縁の下の庭で非公開に舞われていたものが、現在ではどなたでもご覧いただけるようになりました。
千年以上の時を経て受け継がれる「見えない祈りの舞」が、今も静かに息づいています。
今回、住職は舞楽狛鉾の舞人として出仕いたしました。
奉納曲目(太字は舞楽)
- 振鉾(えんぶ)
- 回盃楽(かいばいらく)
- 萬歳楽(まんざいらく)
- 賀王恩(がおうおん)
- 天人楽(てんにんらく)
- 路楽(みちがく)
- 狛鉾(こまぼこ)住職奉納
- 白柱(はくちゅう)
- 長慶子(ちょうげいし)
- 抜頭(ばとう)
舞楽解説
振鉾(えんぶ)
神事の冒頭を飾る、場を清めるための舞。
振鉾は天地四方を祓い、神聖な空間を生み出す重要な所作であり、舞楽の開始を告げる儀礼舞でもあります。
萬歳楽(まんざいらく)
『教訓抄』によれば、隋の煬帝(ようだい)が作曲したとされ、賢王が世を治めるときに現れる鳳凰(ほうおう)が「賢王万歳」と鳴いたという伝説に基づきます。
その鳴き声を音に、舞う姿を形にしたのがこの「萬歳楽」。
笙(しょう)の柔らかな和音、篳篥(ひちりき)の張りのある音色、龍笛(りゅうてき)の澄んだ響きが溶け合い、天上界の調べを思わせる荘厳な楽曲です。
古来より吉祥・長寿・繁栄の象徴として、国家的慶事や法要の際に奏されてきました。
その音に込められた祈りは、今もなお「万(よろず)の命の安らぎ」を願う心とともに響き続けています。
狛鉾(こまぼこ)
「狛鉾」は高麗壱越調(こまいちこつちょう)に属する中曲で、右方の代表的な舞です。
『楽家録』には「こまぼこ」と読み、また「花釣楽」「棹持舞(さおもちのまい)」などの別名も記されています。
『教訓抄』には「執鉾舞(しっぽこまい)」とあり、鉾(ほこ)を執って舞うことに由来します。
古伝によれば、高麗から渡来した人々が五色に彩られた棹で船を操り、やがて四人が肩に棹を掛けて舞い始めたことが起源といわれています。
これが「棹持舞」と呼ばれるゆえんであり、狛鉾は渡来文化と日本的文化が融合した舞といえるでしょう。
その舞姿は荘厳でありながらも、どこか温かな祈りの気配を漂わせます。
抜頭(ばとう)
抜頭は太食調(たいしきちょう)に属する小曲で、古くは「拔頭」「髪頭」「撥頭」とも記され、
人の心の執着や苦悩を“抜く”ことを象徴する舞として伝えられてきました。
『教訓抄』には、唐の皇后が嫉妬により鬼と化し、楼に閉じ込められながらも、ついにその殻を破って舞い出た姿がこの舞の由来であると記されています。
また、『旧唐書』には「父を虎に殺された子が、その悲しみを舞に託した」との伝承もあり、
哀しみと浄化の舞としての性格を備えています。
白い装束に乱れ髪の面をつけて舞う姿は、まるで悲しみの極みから祈りへと変わる人の姿そのもの。
音楽は篳篥と龍笛の哀切な旋律を中心に、笙の和音がその悲嘆を包み込みます。
やがて音が静まりゆくとき、そこには赦しと安らぎの境地が残ります。
四天王寺の経供養では、この「抜頭」が法要の結願(けちがん)として奉奏され、
祈りのすべてを静寂へと還していきます。
経供養の祈りに寄せて
経供養の舞台は、単なる芸能ではなく「儀礼の場」です。
笙・篳篥・龍笛の音色が風に乗り、舞人の一挙手一投足が法華の調べとなって、生きとし生けるものすべてへの慈悲を奏でます。
古代から受け継がれてきたこの舞楽は、聖徳太子の願いに通じる“和をもって貴しとなす”の心を、
今を生きる私たちに静かに語りかけてくれます。
千年の祈りが息づく四天王寺の秋の舞楽法要に、足をお運びくださり誠にありがとうございました。
【令和7年度 経供養】雨天時 住職 狛鉾舞人
【令和6年度 経供養】晴天時 住職 蘇利古舞人
投稿者プロフィール
- 住職
- 高校在学中に仏道へと入門し、早20年以上携わっております。当寺ではあらゆる角度から仏教の素晴らしさをお伝えするとともに、仏教伝来より培われてきた伝統文化と健康を共有する「体験型」寺院を目指し活動しております。ライフスタイルの多様化により、葬送や納骨などの形式が変化している近年です。終活に関するご相談も随時承っておりますので、お気軽にご相談ください。
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