【お知らせ】卯の葉神事-住吉大社に舞楽を奉納-
5月10日(土)、大阪・住吉大社にて「卯の葉神事(うのはしんじ)」が斎行されます。
卯の花(ウツギ)が咲くこの季節、最初の「卯の日」に行われるこの神事は、住吉大神のご鎮座を記念する古式ゆかしい祭典として長く伝えられてきました。
当日は、本殿第一宮にて神職により神事が厳かに執り行われ、神前には榊ではなく、卯の花の玉串が捧げられます。
引き続き、14時から国指定重要文化財である石舞台にて、奉納舞楽が披露されます。
※雨天時は、神楽殿(第二本宮横)にて奉納舞楽。
この奉納舞楽に私も龍笛奏者として参加させていただくこととなりました。
古代の祈りを今に伝える──住吉大社とは
住吉大社は、摂津国一宮であり、全国の住吉神社の総本社です。
その歴史は古く、海の守護神である「住吉三神(底筒男命・中筒男命・表筒男命)」と、三韓征伐で知られる神功皇后をお祀りしています。
古代には遣唐使の守護神としても仰がれ、和歌の神としても深く信仰されてきました。
社殿は、日本古来の建築様式「住吉造」で建てられ、本殿四棟は国宝に指定されています。
また、境内には数々の重要文化財や史跡が残されており、日本の宗教文化を今に伝える貴重な場となっています。
その歴史は古く、海の守護神である「住吉三神(底筒男命・中筒男命・表筒男命)」と、三韓征伐で知られる神功皇后をお祀りしています。
古代には遣唐使の守護神としても仰がれ、和歌の神としても深く信仰されてきました。
社殿は、日本古来の建築様式「住吉造」で建てられ、本殿四棟は国宝に指定されています。
また、境内には数々の重要文化財や史跡が残されており、日本の宗教文化を今に伝える貴重な場となっています。
奉納曲目について― 古の音が語る祈りと物語 ―
今回の卯の葉神事にて奉納される舞楽曲目は、「振鉾(えんぶ)」「承和楽(しょうわらく)」「納曽利(なそり)」「甘州(かんしゅう)」の四曲です。
いずれも、雅楽の歴史の中で特別な意味を持つ楽曲であり、その旋律や舞には、千年以上前の人々の祈りや美意識が映し出されています。
※写真は2024年、住職奉納「登天楽」
いずれも、雅楽の歴史の中で特別な意味を持つ楽曲であり、その旋律や舞には、千年以上前の人々の祈りや美意識が映し出されています。
※写真は2024年、住職奉納「登天楽」
振鉾(えんぶ)― 舞楽の幕開けを告げる「祓い」の舞
まず最初に奏されるのは振鉾(えんぶ)。
これは舞楽における「前舞」であり、舞台や場を清め、後に続く演目を迎えるための祓えの舞です。
舞台にただよう緊張と静寂の中、龍笛と鼉太鼓(だだいこ)の音が一陣の風のように舞台を貫くなか、舞人が右左に大きく鉾を振り、空間を祓い清める姿はまさに神事の一環であり、観る者に厳かな期待感をもたらします。
これは舞楽における「前舞」であり、舞台や場を清め、後に続く演目を迎えるための祓えの舞です。
舞台にただよう緊張と静寂の中、龍笛と鼉太鼓(だだいこ)の音が一陣の風のように舞台を貫くなか、舞人が右左に大きく鉾を振り、空間を祓い清める姿はまさに神事の一環であり、観る者に厳かな期待感をもたらします。
承和楽(しょうわらく) ― 平安の宮廷が生んだ日本の舞楽
承和楽は、平安時代の承和年間(834~848年)、仁明天皇の御代に誕生した純国産の舞楽です。
中国からの舶来音楽が中心だった当時において、これは画期的な創作でした。
『教訓抄』によれば、承和年間に「黄菊の宴」が催された際、仁明天皇の勅命により、大戸清上(おおとのきよかみ)が作曲し、三島武蔵が舞を作舞したとされます。
「承和」という年号から楽名が取られました。
曲調は中庸で、典雅かつ穏やかな美しさが漂い、舞は慎み深く、ゆったりとした所作で構成されています。重陽の節句(9月9日)にちなんで創られたとされ、長寿や吉祥を象徴する舞楽として伝えられてきました。
現代に生きる私たちがこの曲を吹き奏でるとき、平安宮廷に息づいていた美意識と、国風文化の高まりを肌で感じることができます。
中国からの舶来音楽が中心だった当時において、これは画期的な創作でした。
『教訓抄』によれば、承和年間に「黄菊の宴」が催された際、仁明天皇の勅命により、大戸清上(おおとのきよかみ)が作曲し、三島武蔵が舞を作舞したとされます。
「承和」という年号から楽名が取られました。
曲調は中庸で、典雅かつ穏やかな美しさが漂い、舞は慎み深く、ゆったりとした所作で構成されています。重陽の節句(9月9日)にちなんで創られたとされ、長寿や吉祥を象徴する舞楽として伝えられてきました。
現代に生きる私たちがこの曲を吹き奏でるとき、平安宮廷に息づいていた美意識と、国風文化の高まりを肌で感じることができます。
納曽利(なそり) ― 異国の名を伝える高麗楽の幻影
納曽利は、高麗楽(こまがく)に分類される舞楽で、その名称は朝鮮半島の古語を漢字に写したものと考えられています。
古楽書である『教訓抄』『楽家録』などには「納蘇利」「落蹲(らくそん)」など様々な書き方・読み方が記されており、伝承の奥深さを物語っています。
一人舞のときは「落蹲(らくそん)」と呼ばれ、二人舞では「納曽利」とされることが一般的です。舞人は面をつけ、銀色の桴(ばち)を持ち、神秘的な所作で舞台を巡ります。
舞姿はときに膝をつき、うずくまる姿を見せ、心のうちに秘された祈りを象徴します。
装束は、毛縁裲襠(けべりりょうとう)装束。面には紺青または緑青が用いられ、場面に応じて使い分けられます。古くは陵王との対で「双龍舞(そうりゅうのまい)」とも呼ばれました。
納曽利の旋律は、穏やかでありながらどこか哀切を含み、聴く者に遠い異国の風と祈りを想起させます。住吉大社の荘厳な石舞台に響くこの曲は、まさに古代からの贈り物といえるでしょう。
古楽書である『教訓抄』『楽家録』などには「納蘇利」「落蹲(らくそん)」など様々な書き方・読み方が記されており、伝承の奥深さを物語っています。
一人舞のときは「落蹲(らくそん)」と呼ばれ、二人舞では「納曽利」とされることが一般的です。舞人は面をつけ、銀色の桴(ばち)を持ち、神秘的な所作で舞台を巡ります。
舞姿はときに膝をつき、うずくまる姿を見せ、心のうちに秘された祈りを象徴します。
装束は、毛縁裲襠(けべりりょうとう)装束。面には紺青または緑青が用いられ、場面に応じて使い分けられます。古くは陵王との対で「双龍舞(そうりゅうのまい)」とも呼ばれました。
納曽利の旋律は、穏やかでありながらどこか哀切を含み、聴く者に遠い異国の風と祈りを想起させます。住吉大社の荘厳な石舞台に響くこの曲は、まさに古代からの贈り物といえるでしょう。
甘州(かんしゅう) ― 唐土の辺境に祈る幻想の音
甘州(かんしゅう)は、唐の辺境地「甘粛省・張掖地方」の地名を冠したと伝えられる、平調の准大曲です。
伝説によれば、この地には毒虫を棲まわせた竹林があり、甘州の曲を奏でながら竹を切れば、毒虫が害をなさず、金翅鳥(こんじちょう)の声のような旋律が人を守ったとされています。
『教訓抄』や『続教訓抄』には、唐の皇帝や楽人の創作とする説、また海と竹の伝承など、多くの由緒が記されており、いかにこの曲が神秘的な存在として受け継がれてきたかがうかがえます。
甘州には、「延甘州(のべかんしゅう)」と「早甘州(はやかんしゅう)」の二種があり、今回はこの両方を組み合わせた天王寺流にて舞われます。
装束は、巻纓冠(けんえいのかんむり)に諸肩袒(もろかたぬぎ)の襲装束。
舞には「種をまく」所作と「稲を刈る」所作があり、農耕儀礼の要素をも想起させます。
まさに五穀豊穣を祈る舞楽ともいえます。
この四曲を通して、私たちは異なる時代、異なる地域の物語と出会い、それぞれに込められた祈りと美を現代の舞台に再現します。
龍笛の音が、住吉の杜に響き渡るとき、古代と現代、神と人とのあいだに、静かな橋がかかるのです。
伝説によれば、この地には毒虫を棲まわせた竹林があり、甘州の曲を奏でながら竹を切れば、毒虫が害をなさず、金翅鳥(こんじちょう)の声のような旋律が人を守ったとされています。
『教訓抄』や『続教訓抄』には、唐の皇帝や楽人の創作とする説、また海と竹の伝承など、多くの由緒が記されており、いかにこの曲が神秘的な存在として受け継がれてきたかがうかがえます。
甘州には、「延甘州(のべかんしゅう)」と「早甘州(はやかんしゅう)」の二種があり、今回はこの両方を組み合わせた天王寺流にて舞われます。
装束は、巻纓冠(けんえいのかんむり)に諸肩袒(もろかたぬぎ)の襲装束。
舞には「種をまく」所作と「稲を刈る」所作があり、農耕儀礼の要素をも想起させます。
まさに五穀豊穣を祈る舞楽ともいえます。
この四曲を通して、私たちは異なる時代、異なる地域の物語と出会い、それぞれに込められた祈りと美を現代の舞台に再現します。
龍笛の音が、住吉の杜に響き渡るとき、古代と現代、神と人とのあいだに、静かな橋がかかるのです。
響く笛の音に、古代の心を重ねて
舞楽は、ただの古典芸能ではありません。
そこには祈りがあります。
国の安寧、海路の安全、五穀豊穣、人々の幸福。音と舞に込められた先人の願いを、いま私たちが受け継ぎ、奏でてゆく。
住吉の杜に、悠久の笛の音が響くとき、私たちは日本という国が祈りとともに歩んできたことを思い出すのです。
どうぞ皆さま、卯の葉神事のご縁にふれていただき、古代から続く信仰と芸能の世界に、静かに心を傾けてみてください。
【】内リンクをご確認ください。
そこには祈りがあります。
国の安寧、海路の安全、五穀豊穣、人々の幸福。音と舞に込められた先人の願いを、いま私たちが受け継ぎ、奏でてゆく。
住吉の杜に、悠久の笛の音が響くとき、私たちは日本という国が祈りとともに歩んできたことを思い出すのです。
どうぞ皆さま、卯の葉神事のご縁にふれていただき、古代から続く信仰と芸能の世界に、静かに心を傾けてみてください。
【】内リンクをご確認ください。
投稿者プロフィール
- 住職
- 高校在学中に仏道へと入門し、早20年以上携わっております。当寺ではあらゆる角度から仏教の素晴らしさをお伝えするとともに、仏教伝来より培われてきた伝統文化と健康を共有する「体験型」寺院を目指し活動しております。ライフスタイルの多様化により、葬送や納骨などの形式が変化している近年です。終活に関するご相談も随時承っておりますので、お気軽にご相談ください。
最新の投稿
ブログ2025.05.04【お知らせ】卯の葉神事-住吉大社に舞楽を奉納-
お知らせ2025.04.19【お知らせ】四天王寺聖霊会舞楽大法要に出仕いたします
ブログ2025.04.17【住職出演 雅楽公演のお知らせ】「悠久なる雅楽 天王寺楽所の楽統」
法話2025.04.06仏教における「霊魂」の真実 無我と浄土から考える死後のかたち