BLOG ブログ

お盆の文化を探る:浄土真宗における特別な意味と行事

お盆の文化を探る:浄土真宗における特別な意味と行事

盂蘭盆会(うらぼんえ)は仏教の重要な行事で、7月から8月にかけて先祖の霊を供養するために行われます。

現代では盂蘭盆会を略して単にお盆と呼ばれていますが、この行事は仏教の経典「盂蘭盆経」(うらぼんきょう)に基づいており、その歴史は中国に遡ります。

この記事では、お盆の意味と歴史、過ごし方などについて詳しく解説します。

お盆の起源

お盆(盂蘭盆)の意味
お盆、または「盂蘭盆(うらぼん)」は、仏教に由来する行事であり、先祖の霊を供養するための期間です。

この「盂蘭盆」という言葉には、いくつかの解釈が存在しています。

1. 定説としての解釈
多くの仏教研究者が支持する定説によれば、「盂蘭盆」という語はサンスクリット語の ullambana(ウランバナ)を音訳したもので、「倒懸(とうけん)」、つまり「逆さまに吊り下げられた状態」を意味します。この解釈は、中国の唐代の学僧玄応が著した『一切経音義』によるもので、広く受け入れられてきました。この説によれば、「盂蘭盆」は先祖の霊が苦しみから救われるために供養を行う期間であるとされています。

2. 新たな解釈
近年、仏教学者の辛嶋静志氏は「盂蘭盆」という語に新たな解釈を提示しました。辛嶋氏の説によれば、「盂蘭盆」はサンスクリット語の odana(オーダナ:ご飯)の口語形 olana を音写したものであり、「盂蘭盆」とは「ご飯をのせた盆」を意味するというものです。この解釈は、「盂蘭盆」が実際の供養の器を指すとし、供養の具体的な行為を強調しています。

「盂蘭盆」という語の解釈には複数の説がありますが、いずれも供養の重要性を強調しています。

これは起源となった『仏説盂蘭盆経』の内容にに基づいた見解です。

『仏説盂蘭盆経』の内容

『仏説盂蘭盆経』は、目連(モクレン)が母親を救うために供養を行う物語です。この経典は、以下のような内容を含んでいます。

お釈迦様の十大弟子の一人、目連尊者は神通力を持っていました。

彼が母親の姿を見たとき、母親は餓鬼道に堕ち、飢えと渇きに苦しんでいました。

目連尊者が母親を救おうと試みたものの、食べ物や飲み物はすべて灰と化し、母親をさらに苦しめる結果となりました。

悲しんだ目連尊者は、お釈迦様に相談し、母親だけでなく同じ苦しみを持つすべての人を救うことが重要だと諭されました。

そこで、目連尊者は安居(雨期に行われる僧の修行)を終えた修行僧たちに食べ物や飲み物を供えた結果、母親は救われました。

この安居が開ける日を解夏(げげ)と呼び、その日が旧暦7月15日(新暦8月頃)だったのです。

中国におけるお盆

日本より先に仏教が伝わった中国では、この盂蘭盆会が道教の中元節と結びつき、祖先の霊を供養する行事として発展しました。

中元節は旧暦7月15日に行われ、地獄の門が開き、霊がこの世に戻るとされています。

道教と仏教の教えが融合し、中元節では道端に果物や線香を供え、紙銭や紙で作った衣服を燃やして霊を慰めます。

これらの行事は、現在でも中国や台湾、香港、韓国などの東アジア地域で広く行われています。

日本におけるお盆

日本に盂蘭盆会が伝わったのは7世紀頃とされています。

最初は宮中の行事として行われており、「日本書紀」には斉明天皇や聖武天皇の時代に盂蘭盆経を講じ、供養を行った様子が記されています。聖武天皇時代の733年以後は、恒例の仏教行事として毎年供養が行われるようになり、その後、貴族社会や武家社会へと広がっていきました。

鎌倉時代末期には、民衆の間でも先祖のために読経し、供え物をするという風習が広がりました。

盆棚(精霊棚)を準備し、菩提寺の僧に棚経をあげてもらうという供養が行われるようになったのは、江戸時代初期に寺請け制度が始まった頃からです。

迎え火や送り火の風習も、江戸時代に入って盛んに行われるようになりました。

お盆の風習と行事

お盆は、日本では「盂蘭盆会」として親族や親戚、親しい人々が集まり、亡くなった方を偲び、先祖に感謝し供養する大切な仏教行事です。

この時期には、以下のような行事が行われます。

1.迎え火と送り火:ご先祖様の霊を迎えるために13日に迎え火を焚き、16日に送り火を焚いて霊を送ります。

2.精霊棚(盆棚):仏壇に精霊棚を設置し、供物を供えます。

3.盆踊り:先祖供養の一環として帰ってきた霊を迎え、無事送り出すための舞として始まりましたが、現在では地域交流や娯楽の一部として広く行われています。

お盆の行事は地域によって異なりますが、主なものには以下のようなものがあります。

・五山送り火(京都):五つの山に火を灯し、ご先祖様を送る行事。
・精霊流し(長崎):精霊船を曳いて街中を練り歩き、死者の霊を送り出す行事。
・エイサー(沖縄):太鼓を打ちながら踊る伝統的な舞踊。

浄土真宗のお盆

浄土真宗におけるお盆の捉え方は、他の仏教宗派とは大きく異なります。

その特徴的な要素について解説します。

追善供養がない

浄土真宗の教えでは、故人は亡くなるとすぐに阿弥陀如来の力によって極楽浄土に往生し成仏する往相回向(おうそうえこう)という教義があります。

回向とは、もともと自分の行じた善行功徳(善い行い)をもって他の人に及ぼし、自分と他人と一緒に阿弥陀如来の浄土に往生できるようにと願うことですが、自身の力によってではなく阿弥陀如来の力によって往生成仏することに最大の特徴があります。

更に、仏と成られた故人は還相(げんそう)の菩薩となって現世へと自由に還ることができます。

還相とは、阿弥陀如来の浄土に往生し、生きとし生けるものを正しい道へと誘う力を獲得し、この世に還って来て、生きとし生けるものへ伝えて一緒に仏道に向かわせようとする力をいいます。

阿弥陀如来の力により往相も還相も与えられることを本願力回向(ほんがんりきえこう)といいます。

これは中国南北朝時代の僧、曇鸞(どんらん)大師の著書『往生論註』に記させており、浄土真宗宗祖親鸞(しんらん)聖人に多大な影響を与え浄土真宗教義の要となっています。

このため、故人の霊が一時的にこの世に戻ってくると考えることがなく、お盆に故人を供養する行事(追善供養)を行いません。

歓喜会

浄土真宗では、お盆を歓喜会(かんぎえ)と呼びます。

これは、故人に対する追善供養の必要性がないので故人の成仏を願うのではなく、ご先祖様となられた故人への感謝を表し、阿弥陀如来の救いに感謝する行事です。

阿弥陀如来の本願力回向により、故人は既に救いの恩恵を受けているものの、ご先祖様の存在があったからこそ今を生きる自分が存在します。

今を生きる自分もまたこの世の縁が尽きた時には阿弥陀如来の本願力回向のはたらきによって救われることを歓喜するのです。

お盆期間中にお寺で読経をした後、浄土真宗のみ教えについて法話を聴いたり、逆に僧侶に自宅へ来てもらい読経の後、法話を聴くことが一般的です。

他宗派との相違

浄土真宗では、他の宗派で行われる以下のような行事は行いません。

1.迎え火・送り火: 故人の霊を迎えるための火を焚くことはありません。

2.新盆の白提灯: 故人が初めて迎えるお盆に飾る白提灯は必要ありません。

3.精霊棚・精霊馬・精霊牛: 故人の霊を祀る精霊棚や、霊を迎えるための精霊馬や精霊牛も用意しません。

仏壇飾り

お盆には仏壇を飾り付け、提灯を用意することがありますが、その意味合いが他の宗派とは異なります。

誤解されやすいのですが、浄土真宗において仏壇は故人の霊を祀る場所ではなく、阿弥陀如来を祀る場所です。

以下、仏壇のお荘厳について

1.打敷(うちしき):仏壇に白色の三角の布を敷きます。

2.供物:供物台の上に供えます。(故人が好きだったものでも構いません)

3.灯明:白いろうそくを用意します。

4.供華:仏壇に青木や花を飾ります。

5.仏飯:朝に仏飯を供え、昼に下げます。

6.供香:線香は香炉に寝かせて焚きます。

お供え物
一般的にお供えは山の物、海の物、里の物といって、野菜や海藻類、乾物などをバランスよく供えることが推奨されますが、このほか餅や饅頭などの菓子類を供えることもあります。

ただ、地域的に手に入りにくかったり故人が好きではなかったものを供える必要はありません。

供物は供養する気持ちが大切なのであり、物自体が重要な訳ではありません。

お墓参り

浄土真宗では、お墓参りも追善供養のためではなく、阿弥陀如来の教えに触れるための行為とされています。

お盆期間中にお墓参りをすることはありますが、それは通常のお墓参りと同じです。

浄土真宗のお盆は、追善供養や故人の霊を迎える行事ではなく、ご先祖様への感謝と阿弥陀如来の救いを念仏を通じて実感する機会です。

他の宗派とは異なる過ごし方が特徴です。

お盆の現代的な意義

お盆は現代においても、日本の文化と生活に深く根付いています。

多くの人々がこの時期に帰省し、家族とともに過ごすことが一般的です。

特に、都市部で生活する人々にとって、お盆は故郷に帰り、家族や親族との絆を再確認する大切な時間となっています。

また、お盆はご先祖様への感謝の気持ちを表すだけでなく、現在の生活や未来を見つめ直す機会ともなっています。

地域によっては、お盆の時期にさまざまな祭りやイベントが行われ、地元の文化や伝統が引き継がれています。

これらの行事は、観光資源としても重要で、多くの観光客が訪れることで地域経済の活性化にも寄与しています。

結論

盂蘭盆会は、仏教の教えに基づく先祖供養の行事として、中国から日本に伝わり、日本独自の風習や文化と融合して発展してきました。

現代においても、お盆は家族や親族が集まり、先祖への感謝の気持ちを表す重要な行事であり、地域ごとの伝統や文化が色濃く反映されています。

浄土真宗をはじめとする各宗派でも、それぞれの教えに基づいてお盆の行事が行われ、信仰と生活が一体となった行事として大切にされています。

今年のお盆には、伝統的な行事や風習に参加し、ご先祖様への感謝の気持ちを表すとともに、家族や親族との絆を深める機会としたいものです。

お盆の歴史や風習を理解することで、より深い意味を持ってこの行事を迎えることができるでしょう。

当寺院では下記日程にて盂蘭盆会を本堂でお勤めいたします。

・8月13日 9時~15時
・8月14日 9時~15時
・8月15日 9時~12時

ご希望の方は【】内リンクからご連絡ください。

【お問い合わせ】

投稿者プロフィール

石原 政洋
石原 政洋住職
高校在学中に仏道へと入門し、早20年以上携わっております。当寺ではあらゆる角度から仏教の素晴らしさをお伝えするとともに、仏教伝来より培われてきた伝統文化と健康を共有する「体験型」寺院を目指し活動しております。ライフスタイルの多様化により、葬送や納骨などの形式が変化している近年です。終活に関するご相談も随時承っておりますので、お気軽にご相談ください。